前回の続き ミュージシャンの今後の収益確保について考える

前回の記事で、インターネット時代では超低コストで音楽を試聴し、ライブラリを広げることができることを書いた。それによってCDが売れず、レコード会社もミュージシャンも収益確保に四苦八苦しているというのが現状だ。
散々議論されてきたことだとは思うが、ここで再び今後のミュージシャンの収益確保の理想的なモデルについて考えてみたい。

ここでいうミュージシャンというのは、本業の傍らで曲を作ってネット上に公開している人を含めず、純粋に音楽活動を本業としている人のことを指す。

1,ライブと、それに伴うグッズ販売による収益
これが大本命だろう。CDからデータ、ストリーミングと音楽を聴く方法は、より低コストになってきているけれど、いや、それだからこそ、ライブという「場」を共有することの価値は高まっている。レコードすらなかった時代への回帰ということができるのかもしれない。バッハやモーツァルトのいた時代は、「音楽を聴く」といえば、それはコンサートホール等に行って生の演奏を聴きに行くことだったのだろう。そう考えれば、むしろ音楽をパッケージ化して収益を得ていた事のほうがおかしなことだったのかも。
幸運なことに、現代には小さなライブハウスから武道館みたいな巨大な会場まで、ミュージシャンによってキャパシティの異なる会場を自由に選べるし、ロックフェスみたいに、いろんなミュージシャンが一堂に会する場も存在する。インターネットを介して生で配信することもできる。
また、ライブに必ずあるのがグッズ販売だ。本来ならば音楽とは全く関係のないTシャツやタオル等もなぜか飛ぶように売れる。それも、ファンの忠誠心というか、コミットメントが強いほうが当たり前だが売れる。グッズのために開場前から行列を作る、なんてこともザラにある。Tシャツなんかは割と低コストで作れてしまうので、結構な儲けになるのでは? 普通にクオリティの高いグッズや、ネタとして面白いグッズとか、買いたいと思わせないと結局売れないのだろうが。

2,ファンクラブ等によるパトロンの募集
レコードすらなかった時代への回帰、という観点からすると、パトロンの復興も面白いかもしれない。すでにミュージシャンのファンクラブはたくさん存在している。月額いくらか支払うことで、会報とか、ライブチケットの優先枠とかがもらえるというのが一般的なところだろう。
ファンクラブの概念を拡張して、誰でも会費を自由に決めて会員を募ったり、会員限定で情報を発信したり、会員が各々自由にお金を寄付できるようにしたり、なんてことができるプラットフォームがあったら、すごく面白いんじゃないかなあと思う。かつてパトロンは一人で芸術家を1人以上養っていたが、これからは一人のミュージシャンを複数人の小さなパトロンが養っていくのかもしれない。メルマガ配信とかは割とこれに近いんじゃないか。今のところの難点は、ネットの世界だけでパトロンの募集に成功しているミュージシャンの事例が少なすぎることか。結局、リアルで成功してる人がネットでも成功しているだけなんだよね、現状は。

おまけ 楽曲配信による収益確保の可能性について
タダで音楽を聴ける環境があるからといって、iTunes Storeでの販売等をやめる必要はない。ただ、そこでの収益はあまりあてにできないというだけだ。スタジオレコーディングは宣伝みたいにして、ライブ演奏を録音したものを翌日に販売するとか、可逆圧縮Flacで販売して特別感を出す(ここまで音質に拘る人というのはかなりの少数派だと思うし、iTunesでは販売できない)とか、工夫があればそれなりに配信での収益も見込めるかもしれない。活動の規模が小さいのなら、Sellboxや、Gumroadのようなサービスを介して販売したほうが手数料とかの関係でお得になりそうだ。ライブ音源の追加とか、ファイル形式の柔軟性という観点から見てもこっちも方がいい。

もうすでにこういった収益モデルによって活動しているミュージシャンも少なくはないだろう。これから専業の「プロ」ミュージシャンと、趣味で音楽をやっている「アマチュア」ミュージシャンの違いは、ライブにかける時間の多さになっていくのではないかと思う。楽曲配信も、パトロンの募集もそれほど時間を取られるものではない。しかし、ライブに関しては、メンバーと何回もセッションして感覚を掴んだり、会場を押さえて、プロモーションして会場が埋まるくらいには見に来てもらって、ライブ当日はライブ以外の活動ってほぼできない、みたいな感じで楽曲配信やパトロンの募集とは比べ物にならないくらいの時間と手間がかかる。そのライブできちんと収益を上げ続けるのは、音楽を本業としていないと無理だ。

これからの時代の音楽活動っていうテーマは去年に20枚くらいの論文で取り上げてたんだけど、今後も注目したいテーマだなあと改めて思った。
まあなんにしても、好きな事を好きなだけやって生きていくのってやっぱ難しそうです。