善意がアニメを殺す

本日2014年8月1日から活動を始めたらしい、Manga-Anime Guardians Project (以下、MAGP)について率直な感想を書き連ねていきたいと思う。
以下がそのサイト。
http://manga-anime-here.com

このサイトは、気になるマンガ・アニメの画像をクリックすると、その作品が見られるサイトへのリンクが複数貼られている、という形になっている。試しにiPadから「ラブライブ!」の各リンクへアクセスしてみたが、酷いものだった。そもそも、再生できたリンク先は1つもない。リンク切れ、会員登録しないと見れない、ページが用意されているだけで動画がない、再生ボタンを押した後ずっとロードしてる等、これが公式のクオリティとか舐めてるでしょ? コンテンツは徐々に増やしていくそうなので、初日はこんなものなのだろうか。それにしても丸投げ感が半端ない。
マンガ「デスノート」と「宇宙兄弟」も調べてみた。デスノートはリンク先に、各通販サイト&電子書籍販売サイトのリンクが貼られていて、最早「まとめのまとめ」状態。だったら始めからAmazonのリンクとか貼っとけ。宇宙兄弟に関しては、唯一のリンク先である「クランチロール」がPage Not Foundという素晴らしさ。ストレスがマッハです。
あと、iPadからアクセスすると、一覧から次のページに行けないんですけど。一番下までスクロールすると、next prevの文字が一瞬見えた後に消滅して、1ページ目しか見られません。PCありきなんですかね、実に日本的ですね。
…そもそも、海外に向けてこのプロジェクトのこと、ちゃんと宣伝してますか?

これだけ酷評してきたが、ここからが本題。私はアニメがもっと世界規模で広く愛されることを望んでいる。だからこそ、MAGPの活動には危機感を感じているし、早く方向転換をしてもらいたいと思う。

嬉しいことに、海外のアニメファンは増加傾向にあるようだ。

米国アニメエキスポが大台超えた 来場者前年比30%増、過去最高の22万人
http://animeanime.jp/article/2014/07/31/19640.html

この記事によると、海外ファンの消費傾向はイベントや関連グッズが主で、アニメ・マンガ自体はあまり買わないらしい。まともな正規品がないせいかもしれないが。
でも、この傾向から察するに、MAGPって完全に逆効果になりそうじゃないか?力の入れどころを間違えていないか? と、ちょっと不安になる。

この、海賊版を取り締まれば収益がアップするっていう一種の思考停止は音楽業界が既に経験済みだ(ここですぐに音楽業界を出すのもある種の思考停止かな?)。音楽業界も、ネットに出回っている海賊版を無くせば収益は改善するはずだと無邪気に信じて、CCCDコピーコントロールCD)なんていう、PCでリッピングできない仕様のCDを出して、音楽ファン全体から大きな顰蹙を買った。そして、最終的に海賊版を駆逐したのは音楽業界ではなくアップルだった。CCCDは大失敗に終わった。結局音楽の販売システムは、アップルによって完全に乗っ取られてしまった。その後、音楽業界の売上は、年々縮小している。
これと同じことを、アニメ・マンガ業界も繰り返そうとしている。海賊版を取り締まることで収益の改善を目論み、ファンの都合は置き去りになっている。より良いものを提供する、ではなくて、正規コンテンツへ誘導するっていうところに手前勝手な理屈が垣間見えてしまう。利便性とか、体験の質の向上、みたいなところが全く見えてこない。
アニメを放送している局は録画して見放題なのに、ネットだと1週間だけ無料だったり、1週間の間だけ、見る権利を買う必要がある。当たり前すぎて誰もこのシステムに口出ししないが、これは不便である。
また、BDを買ってくれる人はネットでタダ見できたとしても買うし、そうじゃない人は、有料になった時点で見ない。なので、そもそもそのコンテンツが面白いか否かと、判断できる段階にすら到達しない。純粋に視聴者が減るのである。
まずはこの現実を直視してほしい。アニメファンがみんなお金を落としてくれるなんて、あり得ないし、全員から金を搾り取ろうというのも無理がある。もともとタダ見できる地上波のテレビ番組だし。大々的に物を買ったりネットやリアルで発言したり、なんて人は、実は少数派なのではないか?そういう奴は要らないっていうのなら、そうはっきり言いなさい。確実に業界は衰退するだろうけど。

海賊版を取り締まれば損失額分が取り戻せるっていう理屈も胡散臭いよね。損失額なるものは、海賊版のDLの代わりに、BDを買ってくれていたら、っていう仮定で計算されているだけだと思うし。実際は、DLを塞いでもアニメ・マンガ業界にお金は落ちてきません。コンテンツを見てくれる人・愛してくれる人がごっそりと減るだけです。なんでテレビで見るのはタダで録画も自由なのに、ネットで見るにはお金を払ったり会員登録をする必要があるのか。この単純素朴な質問に、そろそろ答えてもらいたい。「違法DLしている奴はクズ」っていう、一部ファンのナイーブな善意(正義感?)に甘えるのは、もういい加減に辞めようよ…

MAGPも、日本国内に限った話ならまだいい。今やニコニコ動画では、ほとんどの放送中のアニメが見れる。自分の住んでいる地域では放送していないアニメも見ることができる。マンガだって漫画喫茶やブックオフに行けばいい。
しかし、今回のターゲットになっている海外については話が全然違ってくる。
まず、最低限英語、他にもフランス語、ドイツ語、スペイン語ポルトガル語、イタリア語、と数カ国の言語で字幕を用意しておく必要があるだろう。それらの言語で、ファンサブを超えるクオリティの字幕、日本orアニメ独特の表現や文化を解説するための注釈もいれる必要がある。日本人が当たり前に理解しているコンテクストが海外でも通用すると思わない方がいいい。
せめてファンサブの世界で有名な翻訳者を雇うくらいの気概は見せて欲しい。IT企業がハッカーを雇うみたいな感覚で。いっそのこと、ファンサブを公式にしてしまえばいいとも思っている。

このMAGPみたいな一方的な活動をした結果、日本のアニメは日本人のもの、みたいなメッセージに取られたり、ファンの気持ちをないがしろにする、と反感を買ったとしても文句は言えない。でも、そこで逆ギレしちゃうのが日本人なんだよね... なんでお前の善意を建ててあげないといけなんだよ、甘えんな! と言いたい。
本当に建てるべきは権利者の善意ではなく、海外のアニメファン、ファンサブを作ってる人たちの善意だ。何で好きっていう純粋な気持ちを踏みにじるのか?好意を持ってくれている人に、冷たく当たる理由でもあるのだろうか?

とりあえず、ニコニコ・YouTube+fansubの人に字幕を依頼で、全世界に多言語同時配信っていうのが、予算面で現実的&効果がありそうでいいと思う。広告収入に頼る方が、BDを買わせるよりもずっと現実的だ。昔のアニメは全話無料公開→BDBoxのリリースが王道のコンボかなと。「聖地巡礼」を促すっていうのは、海外ファンにはハードルが高すぎるか...?
マンガは...どうしますかね?面白そうだと思ったのは、日本語のわかる外国の人達が、翻訳の際の解釈の仕方を議論できる場を作る、みたいなやつ。広告をサイトに張って収益にできそうだし、日本語の分からないファンも、議論を読んで作品の理解が深まるんじゃないかな?iOSだったらiAdっていう便利なシロモノがあるし。

まあこの記事自体が、ネタにマジレス状態になってるのかもしれませんが...


勢いだけで書くとまとまりませんね...